コーヒーの話

ちょうどハマっているものについてのお題になった。やったね。

生まれてこのかた、紅茶派であった。スターバックスのフラペチーノの氷の部分がバニラのものばかり飲んでいた。カフェラテにも魅力を感じず、コーヒー味のキャラメルとかチョコとかキャンディにも興味がなかった。

ここ1年で飲むようになった。手持ち無沙汰でである。

自由な職場ではあるので、自分でちゃんとやっているのであれば休憩はフリーでご勝手にどうぞである。私はすぐにクロレッツガム中毒に陥った。くちゃくちゃにまるまった銀の小さい塊が10個も20個も自分のダストボックスに溜まっているのを見て嫌になった。そしてお菓子以外のものを…と手を出したのがコーヒー。

カフェインに中毒性があるのはわかっていたけれど、自分でもなぜ美味しくないのに飲んでいるのかわからない。美味しい気がするが…美味しいのか?わからん。あ、トールでコーヒーひとつください。

何かしらしなくてはいけないことがある。進まない。書ける気がするが書けない。んんん〜…!ズズズッ。

朝起きた。眠い。あ〜眠い。…ズズズッ。

寒い。目的地まで距離がある。あらカフェがあるわ。テイクアウトひとつ。…ズズズッあっつ!あっつ!!

なぜ口にしてしまうのかわからない。何も解決しないのに。何を求めて350円払ってコーヒーを持って歩きたくなるのか、私にはわからない。なぜ毎朝、パジャマ姿でぼんやりと蒸気をあげてる自動マシンに満足しているのかもわからない。

 

次引っ越すならこの駅だな、と思う町で、いいカフェを見つけた。店主のお兄さんがフィレンツェナポリで修行した人で、本格的なエスプレッソを出してくれる。営業をさぼったスーツのおじさまがぼやぼやお兄さんとお喋りしたり、幼稚園帰りの家族連れがテーブル席でビスコッティを食べたりする。ふらりと入ってきた女性がエスプレッソを頼んで、くいっと一気に飲んで出て行った。あれが本来の飲み方らしい。粋なんだそうだ。私はカフェ文化の知識に乏しいので、へえ〜と言いながらカフェラテをすすった。

飲ませてもらったはじめてのモノホンのエスプレッソには驚いた。確かに苦いだけじゃなかった。美味しいと思った。本当に美味しいのかはわからなかった。でも美味しかった。寒い朝にこれを引っ掛けていけば、すずやかで澄んだ気持ちになるだろう。きっとまた行って、あれを頼む。

まだ味の良し悪しに舌は鈍くて、インスタントコーヒーだろうが缶コーヒーだろうが特に問題なく口にできる。(恋人はそれを苦い顔をして見る。コーヒーだけに。「みやがそれを飲むのは…あれだ、解釈違い」と言われた。私の教えた語彙である。)でも、どんどんいい味のものを飲みたいと思う自分がどこかにいるな、と舌で感じる。フルーティーとかいうあの少しの酸味がほしくて、唾液がじわりと口の中。ああ中毒だ。こうしてみんな大人になるのだ。私もなってしまった。

 

今、こつこつと「天才たちの日課 女性編」を毎日5人ずつと決めて読んでいる。デザイナーや翻訳家、作家、ダンサー、女優、建築家などの女性たちがどういう生活を過ごしていたのかを書いた本である。面白い。

何が面白いって、「過酷に創作活動に励んだ」と書いてあるアーティストが「朝7時に起きて準備、9時から13時きっかりまで仕事、そのあとランチをして散歩、15時から17時までまた集中して、その後は訪問客とディナーを楽しむ」とあることで、サラリーマンに比べたら全然働いてないじゃんと思ってしまうんだけど、まあ西洋は…そうなんだろうな。家事に追われていたり、男に翻弄されていたり、神経症を患っていたり、性格にちょっと鋭すぎるところがあったりする女性が多いので「いや過酷ではないぞ」とは言い難いが、まあ日本人ってやっぱ働きすぎだと思う。

それは置いといて、よく出てくるのが紅茶とコーヒー。中毒者が多すぎる。今半分読み終わっけど、みんな大体がぶがぶ飲みまくっている。コーヒーがないと何もできないって発言もよく見かけた。

 

コーヒーは酒やタバコよりマシだ、と思う。調べてみたら、コーヒーは体に悪い説より、いや結構体に良いんだぜ説の方が今は有力らしい。脳の活性化とかうんたらかんたら。

飲む姿ってなんだかビジネスチックだし、朝に飲むと「やる気があります」というポーズに見える。娯楽としてもいい。あの蓋がついた紙コップで美味しく淹れられたのを飲みながら歩くのって、楽しく思えるし。ポーズとしてちょうどいい。

手持ち無沙汰になった時、何かそれっぽい瞬間的な逃げ道が欲しい。少しだけ休息をください。本音を言えば、休みたいのか頑張りたいのかすら自分ではわからない。そんな一瞬の寂しさと正体のわからない苛立ちと不安に、コーヒーはとてもちょうどいい。スマートそうで、優しくて、きちんとした体裁がある飲み物。

だるい朝。眠い。とりあえず、とりあえず。そうやってネスカフェをセットする。じゅこじゅこ、ぶしゅうと湯気が立つ。あのブラウンの色味。だらしないパジャマの私を引き締めようとしてくれている。大人だからちゃんとします、しますします。ほら、目を覚まそうとしてるし。余裕のある朝にそれを眺めていても優雅に思える。余裕があるように感じられる、自分に。

ちょっとの間だけ、これを飲んでる間だけ許してくれ。本当にちょうどよく、逃げに見えにくい逃げだ。格好がついて、ホッとして、みんなやってる。いい口実。

どんどん私はずるくなる。ずるくならざるをえない年齢になってきた。

 

お題「コーヒー」